九頭龍大神

くずりゅうおおかみ

九頭龍大神

九頭龍大神の別名

  • 九頭龍
  • 九頭龍神

九頭龍大神の御神徳

九頭龍大神の伝承地

  • 福井県・九頭竜川流域
  • 千葉県・鹿野山
  • 長野県・別府温泉
  • 滋賀県・三井寺
  • 大阪府・豊能地域
  • など全国各地に伝承あり

九頭龍大神の継続

  • 特になし

九頭龍大神の鎮座

九頭龍大神の解説

くずりゅうおおかみ

九頭龍大神 九頭龍大神

強力な開運のご利益を誇る『九頭龍大神』。
全国各地に伝承を持ち、ある時は悪役、またある時は善神となる……その正体とは?

九頭龍の調伏伝承

一つの尾から九つの首を生やした龍(あるいは大蛇)の姿で描かれる九頭龍大神(くずりゅうのおおかみ)は強大な力を持つとされ、開運のご利益を求めて多くの参拝者が神社に集います。
全国各地にその伝説がささやかれていますが、中でも今日たくさんの信仰を集めているのが芦ノ湖の九頭龍大神でしょう。

奈良時代のこと。
万字ヶ池(現・芦ノ湖)には九頭の毒龍が住み、たびたび大波を起こしては里人たちを苦しめていたという。
困った里人たちは若い娘をいけにえとして差し出すことで毒龍を鎮めることにした。
しかし天平宝字元年(757)、駒ヶ岳で修行を積み箱根大神の加護をいただいた萬巻(まんがん)上人がついに毒龍退治に挑む。
上人は池の中に石壇を設けてそこに座り、連日祈祷をして法力でもって毒龍を調伏した。
観念した九頭龍は宝珠と錫杖と水瓶を手に水面に現れ「もう悪さはしない。この池と土地を守っていこう」と誓った。
こうして萬巻上人は箱根神社 里宮に続き、万字ヶ池のほとりに九頭龍大神を祀ったのだった。

『箱根・九頭龍神社 社伝』要約

荒ぶる化け物を鎮め、神として祀る……出雲の八岐大蛇や常陸国の夜刀神の神話に似た構造を持っています。
実は全国に散らばる九頭龍伝説の中で特に多いのが、この調伏・鎮静型の伝承です。
千葉県君津市の鹿野山にはヤマトタケルが人々を襲う九頭龍と死闘を繰り広げたという口伝がありますし、戸隠神社の九頭龍社のご祭神は封印された存在だとも言われています。戸隠の奥社が成立するよりずっと前からの地主神でしたが、あまりに毒気が強く人々に害をなすため学門行者によって岩窟に鎮められたのだとか。
(ちなみにこの二つの伝承は龍ではなく『鬼』が悪役で、天津神vs国津神、ヤマト民族vs土着民の戦いを表しているという説もあります)

日本中に現れた九頭龍なる神はなにを象徴しているのか……全ての正体を掴むのは困難ですが、なにか大きな力に立ち向かったという歴史は共通しているようです。

善神としての九頭龍

九頭龍が悪役ではなく善い存在として現れた例も見てみましょう。
平城京跡の二条大路の辺りから出土した約7万4千点もの木簡の中に、九頭龍について書かれたと思われる文章があったようです。

『南山之下有不流水 其中有一大蛇九頭一尾 不食余物但食唐鬼 朝食三千暮食八百 急々如律令』

南山(吉野山か)のふもとに流れずに留まっている水がある。
そこには頭が九つ、尾が一つの大蛇が住み、唐鬼(天然痘)しか食べない。
朝には三千匹、夕には八百匹の唐鬼を食べる。
早急にこの効果が行き渡るようーー

『二条大路木簡』原文と意訳

『急々如律令』は呪文や呪符の決まり文句ですから、この文章が疫病除けとして使われていたことがうかがえます。

また、滋賀県大津市の三井寺には天智・天武・持統天皇の産湯に用いられたという『三井の霊泉』があります。
そこには九頭一身の龍神が住み、年に十日、夜の丑の刻に姿を現しては、金堂の弥勒さまにお水を供えに行くそうです。
(悪龍ではないもののやはり霊力が強いので、龍神がお供えに行く時に泉や金堂近くにいると罰が当たると言われています)

そのほか悪役でない九頭龍の例としては、九頭龍の遺骸から肥沃な土地が育まれたという大阪府・豊能地域(猪名川・五月山一帯)の伝承や、長野県上田市・別府温泉に脈々と受け継がれる雨乞の儀式『岳の幟』があります。

九つの頭の龍というと恐ろしげに感じますが、その姿が瑞祥と捉えられたこともありました。

毒蛇、仏法守護の神、そして様々な姿へ

なぜ九頭龍はこのように全国各地に現れ、時として恐れられ、時として崇められたのか……。
そのわけは、日本古来の信仰と大陸文化との融合の過程にあります。

もともと九頭龍は仏教から派生した神。
仏教の元となったインド神話では猛毒を持つ大蛇『ヴァースキ』とされ、仏教に取り入れられる時に仏法を守護する八大龍王の一柱『和修吉(わしゅきつ)』となりました。
毒牙を収めて善神として日本へ輸入された和修吉でしたが、その強大な力と多頭の姿が恐ろしく感じられることもあったのでしょう……日本古来の大蛇信仰や荒ぶる山の神・川の神と結び付いて、凶悪な九頭龍像が生まれたのだと思われます。
一方で伝来した時のまま善神として祀られた例も多かったので、今日のように悪役であったり瑞獣であったり、九頭龍は実に様々な姿を見せるに神になりました。

文章担当まや(元メンバー)

参考資料

  • 箱根神社 社伝
  • 九頭龍神社 社伝
  • 千葉県君津市 伝承
  • 戸隠神社 社伝
  • 二条大路木簡

挿絵担当異界絵師 緋呂(いかいえし ひろ)

参考資料

  • 九頭龍神社 社伝
  • 箱根神社 社伝

挿絵解説

濁流がカタチをもって九頭龍になる、というイメージで。
鎮まれば恵みをもたらす大いなる水、荒ぶれば人の暮らしなどあっという間に飲み込み押し流す災厄。自然の神は常に、両面の顔を備えているのではないかな、と思います。

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