辰子姫命

たつこひめのみこと

辰子姫命

辰子姫命の別名

  • 辰子姫命のみ

辰子姫命の御神徳

辰子姫命の伝承地

  • 秋田県仙北市田沢湖

辰子姫命の継続

  • 安倍三之丞(父)

辰子姫命の鎮座

辰子姫命の解説

たつこひめのみこと

辰子姫命 辰子姫命

今も田沢湖に棲むという龍神・辰子姫

龍になった美女

辰子姫は、秋田県の田沢湖に棲むという龍神である。
龍になる前の辰子は、美しい人間の女性であった。

現代に伝わる『辰子姫伝説』を紹介しよう。

田沢湖がまだ田沢潟と呼ばれていた頃。
院内に、とても美しい辰子という娘がいた。
辰子は、その美しさを永遠に保ちたいと思い、こっそりと大蔵観音に百日百夜の願いをかける。
満願の夜。「北に湧く泉の水を飲めば願いは叶うだろう」と、お告げがあった。

辰子は家族に嘘をついて家を出ると、院内岳を越え、深い森の道を歩いた。
やがて、苔むす岩の間に清い泉を見つける。

辰子は喜び、泉の水を飲んだ。

しかし、どうしたことか。飲めば飲むほど喉が渇く。
辰子は腹ばいになり、泉が枯れるほど飲み続けた。
時が過ぎ、気づくと辰子は大きな龍になっていた。

龍になった辰子は田沢潟の主となり、湖の底深くに沈んで行った。
辰子の母は娘の帰りを案じ、田沢潟の畔にたどり着いた。
母は娘が龍になってしまったことを悲しみ、松明にした木の尻(薪)を湖に投げ捨てると、それが魚になって泳いで行った。
その魚は後に『国鱒(くにます)』と呼ばれ、田沢湖にしか生息しなかった『木の尻鱒』という。
【田澤鳩留尊佛苔薩縁起より】

他にも、辰子を安倍三之丞の娘と記すものや、泉で岩魚を食べたところ喉が渇き出す、といった『辰子姫伝説』もある。

民話に描かれた辰子姫

辰子姫の物語は、少し形を変えて民話としても描かれている。

むかし、秋田のある村に辰子という美しい娘が住んでいた。
村の人々に容姿を褒められる度に、辰子は「もっと美しくなりたい。いつまでも美しいままでいたい」と思わずにいられなかった。
ある夜。辰子は白い髭の老人の夢を見た。

老人は辰子に言った。
「娘よ。どうしても美しくなりたいか。美しいままでいたいか。それなら、ひとつだけ教えてやろう。ここから3つの山を越えた向こうに、奥深い森がある。その森に行って百日間、神様にお願いをするのだ。願いが叶った時、おまえはもう人間の娘ではなくなってしまうのだが、それでもいいなら行きなさい」

次の日から辰子は、険しい道のりを、雨が降っても風が吹いても出かけて行って、森の神様に祈った。
そして、とうとう百日目。辰子は、どんなお告げがあるのかと、わくわくしながら祈っていた。

すると、しばらくして森の奥から声が聞こえて来た。
「娘よ。お前の願いを叶えてやろう。この森を、どこまでも歩いて行け。すると突然、森が切れて金色に光る湖の畔に出るだろう。その湖の底に入れ。二度と出ることはできない。だが、お前は美しい娘になり、百年でも千年でもその美しさは変わらない」

辰子は立ち上がると、何かに憑りつかれたように歩き始めた。
どこまでも、どこまでも。

すると突然、森が切れて、目の前に金色に光る湖が現れた。
辰子は吸い込まれるように、湖の底へ沈んで行った。

それから長い年月が経った、ある年の夏。
村は酷い飢饉に見舞われた。

日照りが続き、川も田んぼも畑も干上がる。
飢えて骨と皮ばかりになった人々が、森に迷い込みバタバタと死んで行った。

ようやく湖までたどり着いた人々も、手で水をすくって飲みながら、「この湖の水を、ちょっとでも村に引けたら……」と呟いて死んで行った。
湖の底でその様子を見ていた辰子は、胸を痛めていた。

この湖・田沢湖の水を干上がった川に落とせば、村の人々は助かる。
そう思った辰子は、湖の水を川に落としてくれるよう、神様にお願いをした。

辰子は「村人を救ってください」と懸命に頼んだが、神様は聞き届けてくれない。
「そんなことをしたら、辰子。お前は恐ろしい龍の姿になってしまうのだぞ」
神様は言った。

神様の言葉は辰子の心を締め付けた。
「私はもう人間ではないのだから、村人のことで心を痛めることはない。私はただ、いつまでも美しく居たいだけ」
辰子は自分にそう言い聞かせて、外の世界のことは忘れようとした。

だが、人々の苦しむ声は辰子の耳に届き続け、辰子を悩ませた。
気づいた時には、辰子は湖の堤の岩に体当たりしていた。

十回、二十回、百回。美しい顔は血だらけになり、体中が傷だらけになった。
「もっと力が欲しい」
辰子が思うと、体に力がわいて来た。

再び、力を込めて岩に当たると、今までびくともしなかった岩が僅かに動いた。
出来た隙間に、湖の水が流れ込む。
辰子の姿は、いつの間にか一匹の龍になっていた。

それに気づくことなく、辰子は岩に体当たりを繰り返す。
とうとう岩は、音を立てて転がり落ちた。

湖の水が滝となって流れ落ちた時、辰子は自分が龍になってしまったことを知った。
流れ出した水に気づいた村人たちは喜び、山を駆け上った。

見ると、湖から水が滝となって落ちている。
「いったい誰が、こんなこと」
「きっと、辰子に違いない」
村人たちは口々に言うと、湖に向かって手を合わせた。
それから辰子は辰子姫と呼ばれて、人々の心の中に今も生き続けている。

【民話 たつこひめ より】

八郎太郎

男鹿半島の八郎潟に棲む八郎太郎は、辰子姫の恋人と言われている。

十和田湖を南祖坊に追われ、男鹿半島に八郎潟を作り主となった八郎太郎。
毎年秋の彼岸の頃、田沢湖に恋人の辰子姫を訪ねて冬を過ごすため、主の居ない八郎潟は凍りつき、2人の龍神が棲む田沢湖は冬の間も凍らない湖として知られている。
【三湖物語より】

文章担当

参考資料

挿絵担当

参考資料

挿絵解説

辰子姫命に関連する神様

たつこひめのみこと

辰子姫命 辰子姫命